第 1 回
九州各県議会議員研究交流大会
第 2 分 科 会
木佐 茂男教授のコメント
ありがとうございました。
シナリオ上は16時35分までにご報告をいただくということでしたけれども、きちっと1人1分弱のところで延長でしたから、6分ちょっとで、ほんとうにご協力ありがとうございました。
私も、全8県のお話をまとめて伺うというのは、めったにある機会ではありませんので、それぞれの地元の声をこうやってお伺いできて、大変よかったと思っております。あえてまとめますと、3つぐらい論点があるのかなと思っております。
1つは、大多数のご報告をいただきました論点ですけれども、まさに合併の進行状況についての事実認識と評価の問題ですね。これは絶対に欠かせない間題です。とにかく現実が今どうなっているか、いいか悪いかは別にしまして、どういう状況にあるか、それをどう評価するかということは絶対不可欠のことだろうと思います。
大ざっぱに整理させていただきますと、一昨年の夏ごろの段階では、長崎県には2つしか町が残らない、全部市になるという話で、町村会のプロパーの職員の方は、もう自分たちのリストラで、年金はどうなる、退職金はどうなると言って大騒ぎされていたのですが、どうも今そこまでは行ってはいない。これがわかりました。で、今一番合併が進んでいるのが大分県であるというお話が、共通理解になったかと思います。
そして、最も、それはおくれているという評価か、あるいは逆に進んでいるという評価か分かれると思いますが、宮崎県が今、宮崎市と佐土原町という合併ぐらいしか現時点で成立していないという状況では、県境を接しているわけですけれども、両極端にあると。そのほかの6つの県は、おおむねその中間に、どこかに位置づけられるということが、きょうのこのご報告で、会場の皆さんとともに共有化されたと思います。問題のひとつは、日本で今これほど市町村合併が追いまくられるように進んでいるわけですけれども、世界の潮流は一体どうなっているかということです。
私はずっとそういうことを書き続けて2年以上になりますけれども、まず振り返ってみて、日本で今回のやや強制的な合併の動きといのは、実は2002年の初夏頃から始まったものなのです。わずかまだ2年半から3年弱しかたっていないということですね。その兆しはというと、2001年の秋から冬にかけて、政府の経済財政諮問会議とか、地方制度調査会、それから、最終段階の地方分権推進委員会、それらの答申で出てきます。
2001年の後半から、2002年の春先から夏です。わずか2年ちょっとで一斉に、鉄砲一発で鳥が飛び立つように合併騒ぎになりました。これは大変有名な地方分権推進委員会の事実上の委員長と言ってもよかった西尾勝東大教授の論文をきっかけに一気に議論が進んで、1万人未満の自治体は県の直轄とか、皆様もよくご存じの議論に発展していったわけです。
我が国は、このように合併論に行っていますが、べ一スにはしておかなけれぱいけないと思いますのは、日本の合併前の、つまり約三千二、三百であったこの2000年前後の数字を基礎といたしますと、日本の市町村の平均人口は3万9,000人であったということです。きょう現在は、4万人をはるかに超しているというのはご承知のとおりです。
ところが、3万9,000人の基礎自治体の国というのは、実は世界的にほぼ例がないのですね。スウェーデンと韓国が比較的大きいですけれども、韓国はわりかし最近、地方制度が復活しまして、議員も職業議員ではありません。ボランティア議員です。そこでまたいろいろなプラス、マイナス両方の間題点を抱えていますが、その韓軍とスウェーデン、それから、イギリスも白治体がわりかし大きいです。4万人から3万7,OOO人ぐらいありますが、その下に、ご承知と思います、教区(パリッシュ)というのがあって、1万人とか3万人というパリッシュもあるんです。これが確か1万6,000ぐらいもあるのですね。私、ロンドンにあるパリッシュの連合組織本部も行ったことがあります。それ以外はみんな小さいです。スイスは、一昨年も行きましたけれども、市町村の平均人口が2,500人です。760万人の人口に約3,000の市町村があります。
それから、ドイツ。旧西ドイツ地域でやっと8,000人です。それから、旧東ドイツも入れた今のドイツが6,500人が平均の市町村の規模です。それでいて、一番世界で豊かな生活をやっているわけです。大体、平均だれでも2ヵ月は休暇をとらないと処罰されますから、これがヨーロッパの豊かなバカンスを楽しめている国の基礎自治体です。
じゃあ、なぜ広域行政をうまくやっていけるかというと、無数にある事務組合とか広域連合とか、日本風で言うと協議会とか、あるいは一部事務組合とか、そういうものが独自の人事と独自の財政権を持って機能しています。きょうは、私の講演会ではございませんから、これ以上申し上げませんが、外国流れを見ますと、アメリカでも100人、200人の村がいっぱいあります。それで、それなりに自治をやっています。
もちろん、ひどい自治もあります。やくざが支配しているような、暴力団の支配の自治もあります。けれども、アメリカでも今、広域合併の話を聞きません。しかし、100人、200人の村はたくさんあります。で、ヨーロッパは今申し上げたように、スウェーデン、イギリスあたりを除けぱ基本的に小さい。で、自治体の規模がやや小さいという議論が国によってはありますが、今の目本のように、4万人近いものをさらに大きくしようという議論はない。これが、日本で1,000の自治体になりますと、平均人口は13万人とか14万人。いずれ小選挙区制の300区に近い自治体を某政党では構想されていますので、そうしますと、1選挙区が1自治体であって、1人の議員が選ばれる。市長も1人。こういう連係プレーが可能なように描けるわけですね。
そこで、このような情報を一応横に置いて、もう1つだけ情報を申し上げて、議論に供したいと思いますが、去年の4月に、全世界の地方自治体に関する連合組織、大きく3つございまして、それが大同団結して1つの、世界中の地方自治に関する団体の大組織になりました。これは、正確に言いますと「UCLG」と言いまして、「United Cities and Local Governments」で、本部は何とスペインのバルセロナにあります。それまでは、「IULA」って聞かれたことがあると思いますが、国際自治体連合というのがオランダのハーグにありまして、それから、メトロポリスという団体とか、もう1つ、WACLACという団体がございまして、これらが今、大同団結して、去年から世界中の個々の自治体も入っていいのです。
それから、例えぱ、ここで言いますと、福岡県市長会でも、議長会でも入っていいんですよ。それから、日本全体の全国市長会や全国知事会も入っていいのです。ところが、日本は去年まで1つも入っていなかったのです。会費が惜しいからという理由です。アジア全体の本部はジャカルタにあります。中国、台湾、韓国の自治体や自治体連合組織も入っています。
日本は、恥ずかしながら正会員ゼロでした。オブザーバーで入っていた団体が3つありますけれども、これはきょうは無視します。去年初めて浜松市が正会員になったのです。この間電話で浜松市の国際課に聞きましたら、何していいかわからんと。それはそうでしょう。今までのこと、わかりませんから。これが日本の国際化の実情でもあります。
日本は今、こうやって合併を進めようとしていますが、じゃあ、何のために。世界の、今、大同団結したUCLGという組織は、ホームページを見ますと、早速、東南アジアのこの間の大震災のキャンペーンとか、男女共同参画のキャンペーンを張っておりますけれども、きょう、お言葉に何人か出ました、いわぱ自治体間競争の時代が厳しくなるとおっしゃいましたね。あれは、完全否定なのです。
自治体は協力し合う、協調し合う、そして、アメーバのようないろいろな団体が連携をとる、ネットワークを組む。これが世界の流れです。
ところが日本は、企業も個人も自治体も、競争、競争と今言われているのですね。これは、おそらくアジアやアフリカも含めた世界の大きな流れとちょっと違うような気がします。一応、そのことを念頭に置いて、合併という問題についても、大きくして競争というのがいいのか、それから、大きくして杜会的弱者にサービスできるのかというようなことも、あわせ考えなきゃいけないだろう。
これが、今回の合併についての現状認識と評価という、最初に申し上げたポイントです。
それから、2つ目のポイントは、合併は進む。これはもう動いています。ですから、そのことを前提としたときに、何人かの方からお話がありましたように、県の役割はどうなるかということで、道州制とか県連合とかという、組織面でのあり方について我々はどう考えるかというのが、2つ目のポイントだろうなと思いますね。
そして、3つ目の役割として、その県の役割を考えつつ、じゃあ、県議会議員の役割なり、身分なり、これからの選挙制度なり、区割りなどはどう考えたらいいのか。もちろん、皆さんにとって大変大きな問題でもあります。場合によっては、区両が1つになって失職ということだってあり得ないではない。股裂きになる選挙区の方もあろうかと思います。
こういう生身の問題ともややかかわる、議員個人と県議会という組織も含めて、県議会の対応はという間題。ここまで3つあわせて議論できる場は、実はおそらく、全国的に見ても、きょうは珍しい機会ではなかったのかというふうに思っております。